忘れられない宿がある。
スウェーデンを初めて訪れた夏に泊まったその宿は、もう一度足を運びたい思い出の場所。今日はそのホテルをご紹介します。
ふと目に留まった、煉瓦造りの建物
初めてスウェーデンを訪れた時、私は旅行者だった。日本でデンマークとスウェーデンを旅する計画を立てていたところ、自分の誕生日はスウェーデンで迎えることになると気づいた。「現地の人と触れ合うこと」を旅のテーマの一つにしていたため、ほとんどの宿をAirbnb(民泊)で予約していたが、誕生日はホテルに泊まろうかと思い、宿泊先を探し始めた。
そこでふと目に留まったのは、可愛らしい煉瓦造りの建物。他の写真を見てみると、いい意味で素朴な部屋の内装と、野菜をたっぷり使った美味しそうな食事、そしてのどかな田舎風景。どうやら離島にあるホテルらしい。写真からものんびりとした空気感が伝わってくるようで、その年の誕生日は「何もしない贅沢」を自分へのプレゼントにしようと思いつき、予約したのだった。
20万以上の島を持つ国、スウェーデン
スウェーデンは意外にも、世界で一番島が多い国。無人島が多くあり、ボートを所有している人も多く、アイランドホッピングは夏の楽しみの一つ。その中でも今回宿泊したのは、2番目に大きい島、エーランド(Öland)。ストックホルムから約400km南下した場所に位置する都市、カルマルから橋で島へ渡れる。ストックホルムから移動するスケジュールだったため、カルマルで一泊してから島へ移動することにした。
島への移動手段
島への移動手段はバス。島は公共交通機関が少なく、レンタカーがあると便利だが、慣れない場所での反対車線の運転はハードルが高い。バスかタクシーが現実的な手段となる。島を渡るまではバス、そこからはタクシーをアプリで呼ぶのがスムーズにホテルまで到着する方法。
ここからは私の失敗談。
エーランドに移動する前夜、翌日の交通手段を調べていたところ、島を渡るまでのバスしか見当たらないことに気づいた。ホテルは島の反対側にあり、島へ渡ってからは15kmほどあり、巨大なスーツケースを引きずりながら歩ける距離ではない。「そんなはずは…」予約する際に事前にGoogleMapで調べ、交通手段があったはず。宿にメールをして返事を待ちつつ、宿泊していたAirbnbのオーナーに聞いてみると、週末は極端に交通機関の本数が減るから、バスはないかもしれない、とのこと。恐らく事前に調べた際には日付まで入力せず、平日のダイヤを調べていたに違いない。
翌朝宿から「日曜日は公共交通機関がないから、車じゃないと来られないの。伝えていなくてごめんなさい。Hope to see you tonight!」との返事が。自分で何とかするしかない。まずは島まで行けば、何かしら方法が見つかるかもしれないと、バスで島まで行くことにした。バスを降りると、タクシーらしきものは一台も見つからない。観光客が多いとはいえ、みんな車で来ていて、タクシー需要はないのだろう。さて、どうしよう。少し歩いてみるものの、どんどん民家が増えていくばかり
お昼に差し掛かりお腹も空いてきたところで、ピザ屋を見つけた。
「ここでタクシーを呼んでもらえるかもしれない」
そう思った私はお店に入り、ランチをすることに。イタリア人が経営するお店は週末ともあって賑わっていて、注文したピザはとてもおいしかった。しかし問題は、イタリア語とスウェーデン語しか通じない。果たしてタクシーを呼んでもらえるか…心配しつつも聞いてみたところ、半分程度しか通じなかった上に「タクシーはない」と。こちらも身振り手振り、地図を見せながら「ここのホテルに行きたい」と訴える。様子を見ていた店の人たちが集まってきて、ついにはオーナーまでも現れた。オーナーは英語が通じ、「ちょっと待ってて」と。客や店のスタッフと話し、どうやら日曜日にタクシーを見つけるのは難しいと判断したのだろう、結局店のスタッフが私をホテルまで送ってくれることになった。あの時の感謝と嬉しさは今でも忘れない。一人旅はハプニングがつきものだが、こういう出会いや感動があるから、最高に楽しい。最大限の感謝を伝え、店を後にした。あのピザ屋にも、もう一度行きたい。
公共交通機関の乗り方は入念に調べていたものの、タクシーを呼ぶ手段は全く調べていなかったのが今回の反省。タクシーを呼ぶアプリやUberやGrabが使えるのかも、事前に調べておくと安心だ。
スカンジナビアンスタイルの室内
何とか無事に到着場所こそ、Eksgåden。今回の宿泊先である。車を降りると、そこには写真で見ていたままの美しい光景が。チェックインし、部屋の鍵をもらった。私が予約した部屋は一般的なホテルの部屋のようなワンルームタイプだったが、敷地内には一棟貸しの建物もいくつかあり、夏休みシーズンともあって、家族連れが多いようだった。恐らく一人旅で来ていたのは私だけだっただろう。敷地内が小さな一つの村のようで、可愛らしい家々は見ているだけでわくわくさせられた。
そして部屋へ。建物自体は年数が経っているように見えたが、ワンルームタイプの部屋は完全にリノベーションされていて、シンプルなスカンジナビアスタイルにデコレーションされていた。
素材にこだわった皿の数々
レストランの食事もこのホテルのこだわりの一つ。提携した農家や畜産農家が育てた新鮮な素材を厳選し、季節に応じたメニューを提供している。私もここでの食事を楽しみにしていた。
天気も良かったので外の席に座り、サラダとドリンクを注文した。コースメニューは事前の予約が必要なため、希望する場合は事前に問い合わせておくと良い。新鮮な野菜はとても美味しく、環境も相まってとても満たされた時間だった。美味しい料理、心が満たされる空間、自然、太陽、それにシュワシュワがあれば、もう最高である。
夕食を終えて部屋へ戻る途中、家族連れで来ていた女性に声をかけられた。日本に住んでいる友人がいるそうで、私が日本人であることを察し、興味を持って話しかけてくれた。少し話した後、一緒にトランプをしないかと誘われ、彼女の家族と友人達が集まっていたテーブルに一緒に座った。毎年友人家族同士でこの宿を訪れているそうで、「何もないからこそいい。ただ穏やかな時間を過ごしに、毎年の夏ここに来ている。」と話していた。みんな忙しい毎日を過ごしているからこそ、時間に追われることのないこの場所に、スイッチをオフしに来たくなるのだろうと感じた。私もその一人だったから。
モーニングバスケットで、優雅な朝を過ごす
朝食を欠かさない私にとって、宿泊する宿の朝食は大切なポイントの一つ。宿を調べていた際に”オーガニックブレックファースト”の一文に惹かれ、朝食を楽しみにしていた。
朝食会場であるレストランへ行くと、宿泊者それぞれに朝食の入ったバスケットが用意されていた。前日のチェックインの際に、基本のセットに加えて追加したいものを選べ、私はサンドイッチを追加で注文していた。部屋番号が書かれたバスケットを受け取って、好きな場所で食べるシステムだったので、また外の席で食べることにした。北欧の夏は爽やかで気温も20度程なので、天気の良い日は外で過ごしたくなる。
基本のセット内容は、クロワッサン・ゆでたまご・ヨーグルト・グラノーラ・フルーツ・ドリンク。シンプルだが一つ一つの素材が美味しく、とても満足感のあるものだった。特にグラノーラとベリー、ジュースの味に感激したのを憶えている。素材にこだわった朝食で、良い1日をスタートできた。
自分のやりたいことに身を委ねて
「何もしない贅沢」をしにここに来たわけだが、それは本当に何もせずにぼーっと過ごすのではなく、私の場合は「時間の余裕ができた時に、やりたいことに身を委ねられる余裕を持つ」ということを意味している。予定を立てず、静かで穏やかな環境に身を置いた時、私は絵が描きたくなった。絵を描くことは好きだが、近頃全くその時間を作れていなかったから。散歩をしてもいいし、本を読んでもいい。もちろんただぼーっと時間を過ごしてもいい。時間に追われない贅沢が、ここには確かにあった。
交通の便は決して良いとは言えないが、苦労して辿り着いた甲斐があったし、訪れて本当に良かった。スウェーデンで穏やかな時間を過ごしたいと思っている人には、ぜひ滞在してみてほしい場所だ。
交通アプリの紹介
最後に公共交通機関とタクシーアプリを紹介したい。
- Kalmar länstrafikカルマールからエーランドへ行くバスは、このウェブサイト・アプリから検索できる。
Kalmar länstrafik - SVERIGE Taxi私がタクシーを予約したタクシーアプリ。スウェーデンではUberも使われているが、都市によってはタクシーが主流な場合もあるので、タクシーアプリを入れておくと安心。日本のように予約時間前に来て待っている、ということは稀なので、やや時間に余裕を持って予約しておくと良い。私が利用した際は5分遅れてタクシーが到着し、その5分が永遠のように長く感じた。
SVERIGE Taxi - SJスウェーデン全土を走る鉄道会社。長距離の移動に利用し、一等車二等車が選べ、食堂車も付いている。
SJ
今回訪れた場所
Eksgåden
Robertos Restaurang & Pizzeria